直木賞作家・皆川博子の「少年十字軍」を劇団スタジオライフが初舞台化!公開ゲネレポ

  • 2014-2-10

直木賞作家・皆川博子さんの新作長編を劇団スタジオライフが初舞台化!舞台「少年十字軍」が2月8日より、東京 新宿・シアターサンモールにて上演がスタートしました。
“Fluctusチーム””Navisチーム”のWキャストの公演画像とともに、”Navisチーム”の熱演ぶりを伝える公開ゲネプロのオフィシャルレポートが届きました。
【Navisチーム画像】
Navis1 SGR_0116

Navis2 SGR_0370

Navis3 SGR_1005
【オフィシャルレポート】
劇団スタジオライフの新作舞台『少年十字軍』が新宿・シアターサンモールにて開幕。”Fluctusチーム””Navisチーム”と名付けられたWキャストのうち、Navisチームのゲネプロを観劇した。

原作は直木賞作家・皆川博子の同名小説。13世紀フランスで実際に起きた少年十字軍の逸話をベースに、大人たちの様々な思惑に利用され、阻まれながらも、聖地エルサレムを目指す少年少女たちの旅を、彼らや関わる人間たちの内面を深く掘り下げながら描く。

第4回十字軍の遠征から約10年。病の者をたちどころに治癒する不思議な能力を持った羊飼いの少年・エティエンヌ(久保優二)は、エルサレムへ行けとの”神の啓示”を聞く。そんな彼のもと、「エティエンヌがいれば大丈夫!」を合言葉に貧しい子供たちが遠征の途につくが、次第にカリスマ視されていく現実にエティエンヌ自身戸惑いを隠せない。一方で、彼らを取り巻く社会の情勢はひところよりも複雑になっており、大衆の多くはエルサレム奪還という大義とは別のところに心を移ろわせていたのだった……。

小説の主人公は本来エティエンヌだが、スタジオライフ版では、縁あって十字軍に同行することになる青年ガブリエル(松本慎也)の内面世界を中心に据えることで、物語をより重層的にひもといてゆく。
上演開始から50分ほども経ってようやく登場するガブリエルには、彼にしか見えない悪魔・サルガタナス(山本芳樹)がいつも影のように寄り添っていて、逃れられない底なしの”空無”――ニヒリズムを突きつける。ガブリエルの苦しみの正体は何なのか? そして他の者には見えないはずのサルガタナスが見えるもう一人の人間、カドック(青木隆敏)の狙いとは?
少年たちの純粋無垢な心とは真逆のところで背徳と親しむ大人たちのそれぞれの思惑、それが引き起こす少年十字軍の行く末に、後半はハラハラし通しだ。
【Fluctusチーム画像】
Fluctus1 SGR_2132
Fluctus2 SGR_2463
Fluctus3 SGR_3565
また、彼ら大人の目を通して、少年十字軍とは一体何だったのかというテーマが浮き彫りになるところが興味深い。寄る辺ない子供たちがユートピアを目指す。それは序盤、多くの人の共感を得るに違いないが、観客はその純粋さを次第に重荷と感じ、天使のような振る舞いの向こうに疑念さえ見るようになる。観客もまたガブリエルと同じように、無垢の光に照らされることで露わになる己心の中の悪魔性――弱さや虚無感と言い換えてもいい――に気付かされることになるのだ。
それは即ち、使命感に燃える彼らを騙して最後は奴隷として売り払ったという、当時の社会の冷淡さにも繋がるものだろう。

実に人間らしく葛藤を繰り返すガブリエルと、彼の分身であり徹底した虚無の象徴・サルガタナス。演じる松本と山本は、それぞれもうひとつのチーム(Fluctus)では互いに逆の役柄にキャスティングされている。一人の人物の表と裏の両面を同じ役者が交互に演じるという試みだが、そのこと自体に演出家のメッセージを感じずにはいられない。山本版ガブリエルと松本版サルガタナスも見応えがありそうだ。

何しろ長途の旅を描く一大スペクタクルゆえ、場面転換の多さもこの演目の特徴。しかし背景の描き割りをころころ変えるなどといった演出は施されず、基本的にはどのシーンも古びた十字架がそっと見つめるだけの同一セットで貫き、観客の想像力を促している。
演出の倉田淳が「絵本のページをめくるように楽しんでいただけたら」と語っているが、まさにその言葉通り、絵本のようなノスタルジックな色合いに支配された舞台空間が、13世紀フランスの昔へと観客を無理なくいざなってくれるのだ。
貧しい牧童や農夫たちが身に着けているくすんだ衣装の風合いともあいまって、劇中、まるでミレーの絵を見ているような錯覚を覚える瞬間が何度もあった。紆余曲折、波乱万丈のストーリーだからこそ、このようなシックで美しい美術のおかげで落ち着いて観られるのが有り難い。

エティエンヌをはじめとする少年少女たちの役には、劇団イチオシの若手俳優らを数多くキャスティング。初々しさの残る彼らの居ずまい、生命力あふれる声は、平均12歳と伝えられる少年十字軍の稚気と躍動感を見事に表現しきっていた。

中でも、奔放な野生児・ルーを演じた千葉健玖の、逞しくも軽やかな存在感は鮮烈に胸に残る。子供たちが子供たちに見えなければ成立しない作品である。彼らのような”嘘のない”少年十字軍は、他のどの劇団にも真似できないのではないだろうか。

その傍ら、笠原浩夫、石飛幸治、曽世海司らベテラン勢は目を見はる七変化で若手をバックアップ。善人・悪人、男に女、貴族に農民に聖職者までものすごい数のサブキャラクターをそれはいきいきと演じ分け、結成30周年を目前に控え、いよいよ層を厚くしつつある劇団スタジオライフの凄みを見せつけた。

『少年十字軍』は新宿・シアターサンモールで3月2日まで。その後3月8~9日には名古屋・名鉄ホールでも上演が決定している。(文:上甲薫)

☆Infomation

舞台「少年十字軍」
原作:皆川博子 『少年十字軍』(ポプラ社刊)
脚本・演出:倉田淳
東京公演
公演期間 2014年2月8日(土)~3月2日(日)
会場 シアターサンモール(新宿区新宿1-19-10サンモールクレストB1)
名古屋公演
公演期間 2014年3月8日(土)~3月9日(日)
会場 名鉄ホール(名古屋市中村区名駅1-2-1 名鉄百貨店[本館]10階)
《特設サイト》
http://www.studio-life.com/stage/childrens-crusade2013/

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