- 2017-7-12
加藤和樹さん主演舞台『罠』が、7月13日の亀有公演を皮切りに、15日より大阪公演、8月8日より東京公演が開催されます。
1960年に、フランスの劇作家ロベール・トマが書き下ろしたサスペンスの傑作戯曲『罠』。
手に汗握るスリリングな会話劇は日本でも何度か上演され、毎回演劇ファンの喝采を浴びて来た傑作舞台です。
《あらすじ》
「あなたの妻です」と言って現れた見ず知らずの女性。
巧妙に仕組まれ、張り巡らされた罠。
手に汗握るスリリングな展開。
いったい犯人は誰なのか――?
6人の男女の騙しあいと駆け引きの果てに、物語は驚愕の結末を迎える!
2010年に、初主演を果たした思い出深い作品に、この夏再び挑む加藤和樹さん。
主人公のダニエル役について、初演・再演を経て再び挑むことへの想い、2017年版への意気込みなど、たっぷり語っていただきました。
Specialインタビュー②は――
【芝居は互いの心の読み合いだと気づかせてくれたのが、『罠』という作品でした】
――改めて25歳の時に舞台『罠』で初主演を果たした、当時の自分を振り返ってどうですか?
加藤 その時は全力だったけど、今思うと芝居も全然できてなかったし、台本の読み込み方がまたまだ甘かったなって思います。“初主演”のプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、とにかく“がむしゃら”に、膨大なセリフ量を前にして頭の中がグチャグッチャになって……でも結果、その混乱した状態がダニエルという役にうまい具合に投影された事が自分の中では唯一の救いでした。共演のみなさんの力を借りて、やっと舞台に立てたみたいな状態だったので、初演の『罠』では自分の未熟さを痛感させられました。だからこそ、今回の再演が楽しみです。
――初演から7年が経ち、加藤さん自身も32歳を迎え、その間に主演舞台も多く経験してきました。
加藤 ありがたいことに、白井晃さん、小池修一郎さんという名だたる演出家の方や、百戦錬磨の先輩方とお芝居をさせていただく機会に恵まれて、今に至ります。その間、果たしてどれだけ成長できているか自分自身では分からないですけれど、作品と向き合う中で見えて来るものもあるでしょうし、初演時には気づかなかった「実はこういうことなのかな?」という新たな発見もあると思います。
――原作が海外の戯曲ということで、日本人にはニュアンス的に理解しがたい部分もあるかと思います。そこを、いかに伝わりやすい言葉に置き換え、動きで見せられるかが、演出家の方の仕事であり、役者の力量なんでしょうね。
加藤 そうですね。前回、前々回と特に大きく変わったところはなくても、ただ言葉を並べるのではなく、より感情が入りやすい言い回しに変える作業も必要になって来ると思います。
もちろんロベール・トマ氏の台本は大事にしつつ、でも演じるのは日本人の役者でお客様の多くも日本人ですから、普段耳にしない言葉でセリフを言っても皆さんの心には響かない。難しい言葉を並べたからといって「いい作品」とはならないですからね。帰宅する時に「何だか難しくてよく分からなかったね」と言われないように、お客様を引き込むための“言葉”を意識して……僕自身も言い慣れていない言葉だと、どうしても会話のテンポがズレてしまったり「その意味、分かって言ってるの?」って見透かされてしまうと思うので、キチンと意味も調べて。
そういう意味では、この春に古典の名作『ハムレット』で観客に伝えるための台詞、言葉、情報というのを意識して演じた経験は大きかったと思います。それを踏まえて、あとは稽古をやり込んで、自分の言葉にするだけです。
――今回も稽古が進むにつれて、どんどん追い詰められる様が目に浮かびます(苦笑)。
加藤 間違いなくそうなると思いますが、前回よりは楽しんでできると思います。逆にこちらから攻めることも出来るかな? そういう意味でも、さっきも言ったように「25歳の“がむしゃら”なダニエル」とは違う、大人の知的さや余裕を見せることができると思っています。こっちがフッと息を抜くことでお客様も力が抜けるでしょうし、舞台である以上その“共感覚”を大事にしたいですよね。
――初演ではダニエルの必死さに観ているこちらも思わず力が入って、終演後は体のあちこちが痛くかったんですよ(苦笑)。今のお話を聞いて、今回は相手の追求をかわすような余裕もダニエルに見られるのかなと楽しみになりました。
加藤 難しいのは、本当に余裕があるわけではなくて、あくまでも自分を有利な立場に置きたいダニエルが「余裕があるように見せている」ということ。本当に小さなリアクションや表情の変化かもしれないけれど、それを端々に入れて行くことが出来たら、また客席からの見え方も変わるんじゃないかと思っています。
――最後に、『罠』という作品が俳優・加藤和樹にもたらしたものとは“何”か、教えてください。
加藤 難しい質問だなぁ……。多分「騙す」「騙される」は日常の中で多くの方たちが普通にやっていることかもしれないし、“嘘”は生きていくうえで時に必要な場合もある。すべての嘘が必ずしも悪いとは限らないですよね。
でもこの『罠』という作品に関して言うならば、最初から最後まで腹の探り合いで、それはある意味“役者”という職業に於いてはとても重要な要素だと思うんです。「相手がどう仕掛けてくるのか」によって、こっちの出方も変わる。芝居ってそういう心の読み合いでもあると気づかせてくれたのが『罠』という作品。初演時は「セリフの千本ノック」を受けているような感じで、とにかく余裕がなかったけれど、今回は初演・再演と経験を積んだ上での3度目の上演ですから、模索をしながら新たな発見が出来たら……。
登場人物たちが発する言葉のひとことひとことの重み、醸し出す雰囲気、緊張感、プレッシャーの掛け合いで息を呑むシーンをたくさん作りたいし、お客様がグッと引き込まれて瞬きすら忘れてしまうような緊張感あふれる空気で劇場を支配したいと思います。ラストに「やられた!」とうならせる上質な大人のサスペンスをお届けするので、ぜひ楽しみにお越しください。
~了~
※公演詳細は、下記Informationをチェックしてください。
(取材・文/近藤明子)
☆Information
舞台『罠』
【かめあり公演】
日程:7月13日
場所:かめありリリオホール
【兵庫公演】
日程:7月15日~7月16日
場所:兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
【東京公演】
日程:8月8日~8月15日
場所:サンシャイン劇場
作:ロベール・トマ
訳:平田綾子
演出:深作健太
出演:加藤和樹 白石美帆 渡部秀 初風緑 山口馬木也 筒井道隆
《公式サイト》
http://wana2017.jp/